ワシントン広場の夜は更けて

『おばけはこれから。おばけはこれから』

遠くから音の割れたスピーカー越しに聞こえてきた音に

北国の小学生の子どもたちは、もうすぐ夏なんだと胸を踊らせる。

 

7月7・8・9日は神社の大祭が行われ、本来七夕祭りであるはずのその日は

まつり本宮にてかき消されていた。

この三日間は学校もおそらく職場もイレギュラーな公休となり

7日は午後休み。8、9日は休校だった。

毎年300以上の出店が立つ為、数日前から屋台の場所決め番号が白線とともに道路の両側に書かれていた。小学校の裏の道路にも、帰り道の中程までも。

 

祭りの気配が漂い始めた港町は、そわそわと落ち着かない。

神社脇の広場では、お化け屋敷、オートバイサーカス、見世物小屋などの骨組みが出来上がってくる。

骨組みにはスピーカーが、はや取り付けられており録音された呼び込みの音が繰り返し流されていた。

『おばけはこれから、おばけはこれから』

これにはBGMが付けられており、湿度を帯びた陰気なバンジョーの音色が怖かった。

大人になってその曲は「ヴィレッジ・ストンバーズ」と言う

アメリカのバンドの曲だったことが判明した。素晴らしい選曲だと思う。だって怪しくて怖いけど、許せてしまうリズムが ぼんやりとしたあかりを灯している。

 

祭りは待ってる間が、祭りの準備がワクワクする。ドキドキする。

だって祭りはとても楽しいけれど、あっという間に三日間はすぎて

お化け屋敷は怖くて入れないまま。オートバイサーカスのチャレンジャー募集で派手に落ち怪我をした近所のおじちゃん。3年連続 病院送り。

見せ物で『蛇女』が食いちぎった蛇の頭を客席に放り投げた時、キャッチして立ち上がりそれをさらに噛み砕き不敵に笑った隣のクラスのチカちゃん。『蛇女』は泣いていた。やめてやれよ・・・

 

奴さんの行列が町を練り歩き、一歩踏み出すと『しゃん』と鈴の音がする。

そう、奴さんの前掛けの裏にはびっしりと鈴が縫い付けられている。

子ども達はお目当ての奴さん(中学生くらいが多かった)に『鈴ちょうだいな』と声をかけ、優しい奴さんは、前掛けからぷち と鈴をむしり、ナイスコントロールで投げてくれる。この奴さんの鈴を入手すると一年間幸運でいられるとあって、大人気で沿道は

『ちょうだいな』のコールアンドレスポンスだ。奴さん、ありがとう。

夜店で学校では禁止されてた買い食いもあったが、禁止の意味が不可解だったので不可解だったので不可解だったのでご禁制のアレコレも食べた。おでん、焼きウニ、つぶ焼き、イカ焼き、東京ケーキは強力ワカモト入りが人気だった。

型抜き、スマートボール、綿菓子、お面。

 

後祭が終わり、突然日常に戻された 熱に浮かされていた子ども達は気づく。

 

町中で聴こえていた、あの曲はもう聴こえない。流れてない。

いつの間にか大好きになっていたあの不思議な音楽。

 

『ワシントン広場の夜は更けて」

 

余談ですが、フジファブリックのファーストアルバムに入っている

『サボテンレコード』を聞いた時に、子供の頃の胸のざわつきが蘇り

なぜか近しいものを感じて聞き入りました。

でも浮かんだ景色は お祭り ではなくなぜか ハロウィン でした。